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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)9443号 判決 1980年3月31日

原告

株式会社 進誠

右代表者

森田六郎

原告

東洋産業株式会社

右代表者

林宇一郎

原告ら訴訟代理人

堀博一

被告

株式会社長谷川萬治商店

右代表者

長谷川剛

右訴訟代理人

小笠原市男

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一請求の原因第一項の事実<編注・原・被告の営業内容>は、当事者間に争いがない。

二<証拠>を総合すると、請求の原因第二項1、2の事実<編注・原告らの訴外岡部木材有限会社に対する債権の取得>が認められる。

三1同第三項1の事実<編注・訴外会社の営業内容>は、当事者間に争いがない。

2 <証拠>によると、訴外会社は、銀行借入れ等によつて土地の購入、設備の拡充をはかつてきたが、石油シヨツク以来の原木高、製品安の状態により、収益が伸びず、逆に大きな金利負担や工場の一部焼失、取引先の倒産等の状況が加わり、昭和四九年一一月ごろから資金繰りが苦しくなり、その頃、被告に工場敷地の買取方を求めたが、被告の容れるところとならなかつたため、やむなくそれ以来毎月相当量の在庫原木を信頼できる大手木材業者である被告に買取つて貰い、その代金により当月の手形決済の一部をする破目にいたつたが、昭和五〇年九月にいたり、在庫原木の一部を他に売却していることが債権者に知りわたり、原木の購入ができなくなり、ついに同月末日ごろ二回の不渡手形を出し、倒産するにいたつたこと、訴外会社は、倒産当日まで平常どおりの生産、販売をつづけたが、債務総額は約五億円に達し、不動産の担保余力は全くなく、昭和五一年一月一四日午後一時に、千葉地方裁判所木更津支部において、破産宣告を受けるにいたつたこと、以上の事実が認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

四1  <証拠>を総合すると、訴外会社は被告に対し、昭和四九年一一月、一二月に、約一億円相当の在庫原木を売渡したほか、翌五〇年二月一〇日から同年六月二六日までの間、七回にわたり、その在庫原木を合計約二億五〇〇〇万円で売渡したこと、右売却にかかる在庫原木のうち、訴外会社の仕入価額の判明している分が約二億四〇〇〇万円であるのに対し、これに対応する被告への売渡価格が約二億〇八〇〇万円であり、その差額約三二〇〇万円が訴外会社の赤字となつていること、また、被告買取分のうち、被告の転売価格の判明している分が約二億三五〇〇万円であるのに対し、これに対応する訴外会社からの仕入価格が約二億二九〇〇万円であり、その差額約六〇〇万円が被告の荒利益となつていること、以上の事実が認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

2  つぎに、訴外会社は被告に対し、昭和五〇年六月末日ごろ、米栂盤を一立方当り金二万一〇〇〇円合計金六三四万四九六九円で、同年八月末日ごろ、米栂盤を一立方米当り金二万二〇〇〇円合計金一六九五万五一五八円で売渡したことは、当事者間に争いがないところ、<証拠>を総合すると、訴外会社が昭和五〇年六月末日ごろ被告に売渡した前記米栂盤は、同社が原告進誠から、一立方米当り金二万五五六〇円合計金七七二万二七三四円で仕入れたものであり、その差額金一三七万七七六五円が訴外会社の赤字となつていること、また訴外会社が同年八月末日ごろ被告に売渡した前記米栂盤は、同社が原告東洋産業から、一立方米当り金二万九〇〇〇円合計金二二三四万九九八一円で仕入れた分であり、その差額金五三九万四八二三円が訴外会社の赤字となつていること、以上の事実が認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

五  そこで、原告らの債権侵害の主張を検討する。

1 担保権を有しない債権者は、債務者の責任財産に対して直接の支配を有さず、従つて債務者がその責任財産を契約によつて第三者に廉価で売却することにより、債権者に対する債務を事実上履行し得なくなつても、原則として、債権者取消権(否認権)の行使による法的救済をなし得るにとどまり、不法行為法の適用を認めることができないが、第三者が債権者に対する債務の履行を不能ならしめる積極的な故意をもつて、債務者を教唆し、あるいはこれと共謀して右の所為に及ぶなど、その行為の違法性が特に強く認められる場合には、第三者に対する不法行為責任の追及をなし得るものと解される。

2 そこで、これを本件についてみるに、たしかに、前記のように、被告が従来は原木を訴外会社に売渡す側であつたのに、昭和五〇年一一月ごろ、同社代表者からその窮状を訴えられて、その所有土地の買取方を求められ、これを拒絶して以来、在庫原木の買手側にまわり、同社の資金繰りにいわば協力してきた経緯や<証拠>によると、被告は、同年一一月二九日、同社所有土地に対して、初めて極度額金六〇〇〇万円の根抵当権を設定していることが認められることを考えあわせると、被告は、同社の資金繰りが悪化していることを知りながら、前記在庫原木の取引をするにいたつたことを推認することができる。しかしながら、さらに進んで、被告が前記のように、訴外会社からその仕入値より廉価で在庫原木を買受けたことが、同社倒産の主原因をなすことを認めるに足りる証拠はないし、被告が同社の経営に深くかかわり、倒産を予見し得る立場にあつたことを認めるに足りる証拠もない。また、<証拠>によると、被告が訴外会社から在庫原木を買受けたのは、いずれも訴外会社代表者からの申込みによつてなされ、その価格も、訴外会社代表者と被告社員との相対による交渉により決定され、訴外会社の支払手形決済のため、相場を下まわる価格により決められたことがあるものの、取引の対象となつた原木は、必ずしも良質材ばかりとはいえず、相場どおりに決められたことも多かつたことが認められ、右事実に、被告の転売による前記荒利益率や訴外会社の倒産にいたる前記経緯をあわせ考えると、被告が前記のように訴外会社の資金繰りが悪化していたことを知りながら、同社が赤字を計上する取引に応じたことをもつて、直ちに被告が債権者に対する債務の履行を不能ならしめる積極的な故意により、訴外会社を教唆し、あるいはこれと共謀して右取引に及んだものということはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3 そうだとすれば、原告らの債権侵害に関する主張は採用しない。

六次に、原告らの詐欺幇助の主張を検討する。

1  原告らは、訴外会社が買受代金支払の意思も能力もないのに、原告ら仕入業者からこれがあるように装つて原木を買受けた旨主張するが、たしかに、同社が昭和四九年一一月ごろから、資金繰りが悪化し、ために右買受原木の一部を被告に対し、仕入値を割つて売却してきたことは、前記のとおりであるものの、訴外会社代表者は、被告から所有土地の買取りを断わられたため、やむなく信頼できる大手木材業者である被告に依頼して、在庫原木を買取つて貰い、毎月の支払手形決済の一部に充ててきたものであることは、前記のとおりであり、さらに<証拠>によると、訴外会社は、製材業自体を休むことなく継続し、その受注状況も良く、倒産直前まで工場設備の拡充作業をしていた程であることが認められ、これらの事実に前記倒産にいたる経緯をあわせ考えると、訴外会社代表者は、あくまでも事業継続の意思をもつて原木の買受けをしてきたことが窺われ、前記事実をもつて、直ちに訴外会社代表者に仕入業者を欺罔する意思があつたものということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2  そうだとすれば、訴外会社代表者の詐欺を前提とする原告らの主張は採用しない。

七以上のとおり、その余について判断を進めるまでもなく、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(伊藤博)

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